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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)191号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1 取消事由(1)について

成立に争いのない乙第三ないし第八号証によれば、被告は、「1 あらゆる機械の設計、包装機械及工作機械製造販売並びに修理、2 機械部品の設計、製造販売並びに修理、3 機械並びに機械部品の売買の取次又は代理、4 前各号に附帯する一切の業務」を目的として設立された株式会社であり、各種の真空包装方法又は真空包装装置を研究開発し、同装置を製造販売していることが認められる。

右事実と前示当事者間に争いのない請求の原因一、二の事実によれば、原告を特許権者とする本件発明と被告が研究開発、製造販売する真空包装方法又は同装置とは技術分野を同じくし、原被告は競業関係にあつて、本件発明の特許の有効無効は被告の右業務の遂行に直接影響を及ぼす関係にあることが認められる。したがつて、被告には本件発明の特許を無効とするため審判を請求する法律上の利益があるというべきであり、これに基づいて被告のした本件審判の請求は適法のものと認められる。

原告主張の事実は、右事実に照らし、本件審判の請求を不適法とする理由とは認められず、原告の取消事由(1)の主張は失当である。

2 取消事由(2)について

前示請求の原因一、二の事実によると、本件発明が「真空包装における上フイルム接触加熱方法」に係る発明であることが明らかである。

そして、成立に争いのない甲第二号証及び乙第一号証により認められる昭和五六年六月八日付手続補正書による補正後の本件明細書(以下、この補正後の本件明細書を「本件明細書」という。)及び図面によれば、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、その冒頭に「この発明は真空包装における上フイルム加熱方法に関するものである。」(甲第二号証一欄下から九・八行)として、本件発明の対象を明らかにした上、被包装物を二枚のフイルムによつて被覆包装する包装技術に関し、従来技術として間接加熱方法と「真空ボツクスの上下空間に上フイルムを仕切り状に挟圧させ、上部室内の加熱板を上フイルムに接触加熱させる方法」(同二欄八~一〇行)があつたこと、この接触加熱方法は、間接加熱方法の加熱板温度を数百度に上げる必要がないという利点はあるが、一方、欠点として「真空ボツクスの上下室が完全に真空化され、下フイルム及び被包装物を載せた載台を上フイルム面に上昇接触させるまでの間に上フイルムが成形適温が保持されないため、完全良好な包装ができない問題があつた。」(同二欄一八行~二八行)こと、この問題解決のための技術として、「下部室を上部室より僅かに早く真空源と接続して上フイルムを加熱板に吸い上げ(sucked up)させる方法が公知であるが、この方法は、真空操作開始初期の段階でのみ、上記操作を行うだけであつて、その後は上下両室とも同じ真空度にされるものであるため、上フイルムが加熱板に接触保持されるのは、真空操作開始初期だけであり、その後は、上フイルムが加熱板から垂れ下つて離れる場合がしばしばあり、載台を上昇させたときには、成形適温状態に加熱されていず、良好な包装ができない問題があつた。」(同二欄三〇行~三欄四行)として、右公知技術の欠点を挙げた後、「そこで本発明は、真空ボツクスの上下両室間に上フイルムを仕切り状に挟圧させ、且つ上部室内の加熱板を上フイルム上に下降接近させた状態で上部室内の排気速度を早く、下部室内の排気速度を遅く排気させ、この排気速度差により、上下両室内が真空化され、且つ下フイルム及び被包装物を載せた載台が上フイルム面に上昇されるまでの間、上フイルムを加熱板に継続して接触保持させることによつて、上記問題を解決したものである。」(同三欄五~一四行)と説明していることが認められる。

右の説明と前示当事者間に争いのない本件発明の特許請求の範囲によれば、本件発明が右特許請求の範囲に示される構成により、「上下両室内が真空化され且つ下フイルム及び被包装物を載せた載台が上フイルム面に上昇されるまでの間、上フイルムを加熱板に継続して接触保持させること」を実現し、もつて、従来技術の欠点を克服したものであり、右の構成をその要旨とするものであることが明らかである。

一方、前示本件明細書及び図面によれば、被包装物を二枚のフイルムによつて被覆包装する真空包装の工程は、右図面(別紙第一図面)第1図に示される「下部室1´´の開口面に載台2を上昇させた状態でこの上に下フイルム6を敷き広ろげ、この上に被包装物7を載せ並べる。」(同三欄二八~三〇行)第一工程と、同第2図に示される「次に載台2を下部室1´´内に下降させ、側方のフイルムロールから上フイルム8を巻き戻して下部室1´´の開口面に張る。次に上部室1´を第2図に示す様に下部室1´´上に下降閉合させ、上フイルム8を上下室間に仕切り状に挟圧させる。これと同時に加熱板3を上フイルム8上に下降接近させる。この状態でホース4´´´を真空装置に接続し、各ホース4´、4´´を通して上フイルム8によつて仕切られた上下両室1´、1´´内の空気を排気する。この排気時、ホース4´´の流量調節により上部室1´の排気速度を下部室1´´のそれより早くし、この内圧差によつて上フイルム8を加熱板3に接触状態に保持させて成形適温に所定の温度で加熱させる。」(同三欄三〇~四三行)第二工程と、同第3図に示される「次に上下両室1´、1´´が真空になると、加熱板3を上昇後退させると共に、載台2を上フイルム8面に上昇させ、この状態でホース4´´´を大気に切換える。そして大気圧を各ホース4´、4´´を通して上下両室内に作用させ、加熱軟化せる上フイルム8を第3図に示す様に下フイルム6及び被包装物7上に密着被覆成形させる。」(同四欄四~一〇行)第三工程よりなることが認められる。

以上の事実によれば、本件発明の上フイルム接触加熱方法が、右の第二工程に係るものであつて、大気圧を上下両室内に作用させるため大気を上下両室に導入する第三工程に係わらないことが明らかである。そして、第三工程の大気を導入する方法をどのようにするかと無関係に、本件発明の方法を右第二工程として用いることが可能であることは前示事実から明らかであるから、第二、第三工程が技術手段として表裏一体であつて分離できないということもできない。

そうとすると、本件発明が右第三工程に当たること明らかな「上下両室に大気を導入するに際して同じ排気管を逆流させて導入し上部室が下部室より若干早く大気圧に戻るようにする方法」をその要旨とするということはできない。

したがつて、原告の取消事由(2)の主張は理由がない。

3 取消事由(3)について

(一) 成立に争いのない甲第三号証によると、第一引用例には、次の構成を有する真空包装装置、すなわち、下部部材24と上部部材26とからなるパツケージ仕上げステーシヨン22を有し、下部部材24は、上部が開口し、かつ側壁部頂面がシール用加圧面を形成する枡形のシールダイ42を具備し、その底部には底部空間66に通じる通路64が形成されていると共に、その側壁部内には、その頂部において容器の排気開口70へ通じる開口とその下部において通路64に通じる通路68を形成した加圧バー80が配置されており、この加圧バー80は、上下方向に摺動可能であつて作動ロツドに取付けられており、容器内の排気に際して、容器のフランジ部の開口70を閉鎖しないよう下げた状態に置かれると共に、上端に突出した板ばね状部材で右開口70の一方の端縁部を支持して開口の保持を図るものとされており、上部部材26は、電熱ロツド48が埋込まれたシールクランプ46とプラテン50とからなり、シールクランプ46はその下面のシールダイ42頂面と対向する周縁部分にシール用加圧面が形成されており、この周縁部分の内方凹部にはプラテン50が右シール用加圧面よりわずかに沈められた表面を有する状態で設置されており、かつプラテン50の表面にはパツケージ頂部の空間74に通じる通路72が開口し、右シールダイ42の加圧バー80の位置に対向するシールクランプ46の周縁部分には、プラテン50の表面と同一面をなす凹所82が形成され、この凹所82も右通路72に連通し、右パツケージの頂部空間及び凹所82に連通する通路72及び容器内部の空間に連通する容器の排気開口70と通路68並びにシールダイ42の底部空間66に連通する通路64は、いずれも弁60を介して真空ポンプに連結され真空通路を形成している真空包装装置が記載されていることが認められる。そして、前示甲第三号証によれば、第一引用例の右装置においては、仕上げステーシヨン22に到達した被包装物が収容された容器16は、容器のフランジ部がシールダイ42のシール用加圧面上に載置されるようにしてシールダイ42内に収納され、シールダイ42の上部全面にわたつて上フイルム20が張架され、その上からシールクランプ46がシールダイ42に対して加圧状態で係合され、上フイルム20の上方にパツケージの頂部空間74が、上フイルム20の下方に容器内部の空間とシールダイ42の底部空間66が形成されているものであり、「種々の真空通路を適当に調和させることにより、弁60により真空を適用すると、パツケージ内よりも、パツケージ頂部上方の空間74における圧力が急速に減圧され」(甲第三号証訳文一一頁一五~一八行)、「頂部シート20を横切つて、すなわちシートの上下空間の間に大きな圧力差がもたらされ、第3図に示すように、プラスチツクシートは押上げられて、瞬間的にプラテン50に接触させられて、プラスチツクが加熱されて、延伸のために軟化される。」(同一二頁二~八行)ものであり、その「排気が完了まで進行すると、シート20の上下の圧力は等しく、あるいはほぼ等しくなり、プラスチツクシートはその水平位置(第2図)に戻ろうとする。」(同一二頁九~一二行)との記載の示すとおり、上フイルム20(シート20)は、右の内圧差により、右頂部空間及び下部空間の真空化が達成されるまで、加熱手段であるプラテン50に継続して接触保持されるものであることが認められる(別紙第二図面第2、第3図参照)。

右第一引用例の真空包装装置における上フイルム接触加熱方法と本件発明の前示特許請求の範囲に示される上フイルム接触加熱方法を対比すると、両者は、上フイルムにより仕切られた真空包装室の上部空間の排気速度を早く、下部空間の排気速度を遅く排気させ、この排気速度差による上下両空間内の内圧差により、上下両空間内が真空化されるまでの間、上フイルムを加熱板に継続して接触保持させる真空包装における上フイルム接触加熱方法であることにおいて、一致するものであることが認められる。すなわち、審決がその理由の要点3において述べている本件発明と第一引用例のものとの一致点は、右認定と適合する範囲において正当ということができる。

(二) 原告は、第一引用例のものに上側フイルムにより仕切られた真空包装室はないと主張し、また、第一引用例のものに上部空間とか下部空間というものはないと主張して、審決の一致点の認定を争うが、第一引用例に、シールダイ42内に容器16を収納し、シールダイ42の上部全面にわたつて上フイルム20が張架され、その上からシールクランプ46がシールダイ42に対して加圧状態で係合させることが示され、この場合上フイルム20の上面にはパツケージ頂部空間74が、上フイルム20の下面には容器16の内部空間とシールダイ42の底部空間66が形成され、これらの空間が排気速度の差異により内圧差が生じ、真空化されて、この中で真空包装の一工程である上フイルムを加熱板に継続して接触保持させることが示されていることは前叙のとおりであるから、第一引用例のものに、上フイルムによつて仕切られた真空包装室があることは明らかであるし、本件発明の内圧差が発生する上下両室の空間に相当する上部空間と下部空間が存在することも明らかである。したがつて、原告の右主張は到底採用できない。

原告は、また、内圧差を発生させる構成が本件発明と第一引用例のものとは全く異なる旨主張する。そして、前示本件発明の特許請求の範囲によれば、本件発明において上下両室内の内圧差を発生させる構成は、「上室を経由して上室を真空化する場合は下室と上室との連通経路の内径を調節し、夫々別個の経路で真空化する場合は経路の内径に差をつけて上部室内の排気速度を早く、下部室内の排気速度を遅く排気させ」ることにあることが明らかであり、一方、前示甲第三号証によれば、第一引用例には、「種々の真空通路を適当に調和させることにより、」との記載によつて、パツケージの頂部空間と凹所82に連通する通路72及び容器内部の空間に連通する容器の排気開口70と通路68並びにシールダイ42の底部空間66に連通する通路64を適当に調和させることにより、容器内部よりも、パツケージ頂部空間における圧力を急速に減圧して内圧差を発生させることを示しているにすぎず、「真空通路を適当に調和させる」具体的手段を明示していないことが認められる。しかしながら、原告が述べるところの、第一引用例のものの場合、「容器の周囲の空間の排気は導管を通じて行い、容器内部の空間の排気は容器のフランジに設けられた開口70を通じて同時に行うものであり、このため、容器の周囲の空間は急激に排気されるのに対し、容器内部の空間は仲々排気されず、この内圧差によつて容器は膨張し」ということ自体に示されるとおり、第一引用例のものの場合、内圧差が発生するのは、容器内部の空間から排気される大気の量が容器周囲の空間から排気される大気の量より少ないことによることが明らかであり、断面積の異なる通路を流体が流れる場合、他の条件が等しければ、一定時間内に右各通路を流れる流体の総量は、断面積の大きな通路の方が小さな通路よりも多量となることは日常の経験によつても明らかなところであるから、右のように第一引用例において排気される大気の量の差により内圧差が発生するのは、パツケージの頂部空間74と凹所82に連通する通路72及び容器内部に連通する容器の排気開口70と通路68並びにシールダイ42の底部空間66に連通する通路64の内径に差があることによるものであることは、当業者にとつて自明のことと認められる。第一引用例が前記のとおり「種々の真空通路を適当に調和されることにより」と述べているのは、排気すべき各空間の大気の容量が確定されていないことを考慮し、右のとおり各通路に内径差を設けることを含めて、シートの上下空間に大きな圧力差がもたらされるよう排気量を適当に定めた各真空通路を設けることを示しているものと認めるのを相当とする。

そして、第一引用例のものにおいて、上フイルム20は、右の内圧差によりパツケージ頂部空間及び下部空間の真空化が達成されるまで、加熱手段であるプラテン50に継続して接触保持されるものであることは前叙のとおりであるから、本件発明と同じく、上フイルムは加熱の進行に際してたれ下がることはないと認められ、この点においても本件発明と異なるところはないと認められる。

したがつて、原告が取消事由(3)の(二)(1)(2)で主張するところは理由がない。

(三) 次に、原告が取消事由(3)の(二)(3)で主張するところは、取消事由(2)において判示したとおり、本件発明の要旨としない第三工程に関する部分であることが明らかであるから、これにつき審決の認定を論難しても、審決を違法とする事由とはならないことが明らかである。

(四) 以上に述べたとおり、第一引用例には、上フイルムにより仕切られた真空包装室の上部空間の排気速度を早く、下部空間の排気速度を遅く排気させ、この排気速度差による上下両空間内の内圧差により、上下両空間内が真空化されるまでの間、上フイルムを加熱板に継続して接触保持させる真空包装における上フイルム接触加熱方法が開示され、この排気速度差による内圧差を真空通路の内径差により生じさせることも示されている。

そして、成立に争いのない甲第四号証によると、第二引用例には、被包装物を二枚のフイルムによつて被覆包装する真空包装技術に関し、上室と下室を備え、上室の中に加熱源が、下室の中に載置台があつて、上室と加熱源、下室と載置台がそれぞれ相対的に移動する密着真空包装において、載置台を下げた状態で真空包装室の上下両室間に上側フイルムを仕切り状に挟圧させ、かつ、上下両室を真空化すると同時に加熱源8を上側フイルム上面に近接下降させ、下側フイルム及び被包装物を載せた載置台が上側フイルム下面に近接するよう上昇するまでの間、上側フイルムを加熱源により加熱させる真空包装における上フイルム加熱手段が開示されていることが認められる。また、下部室を上部室より僅かに早く真空源と接続して上フイルムを加熱板に吸い上げさせる方法が本件出願前公知の方法であつたことが本件明細書に述べられていることは前叙のとおりである。

そうすると、右公知の方法を前提に、同じ真空包装の技術分野に属する右第一、第二引用例に示される技術手段を組み合わせて、本件発明の構成とすることは当業者にとつて容易になしうる程度のことと認めるのが相当である。

原告は、「一台のポンプで真空をはかる場合は、時間差によらず内径差によらなければ上下両室の内圧差を最後まで継続させることができない」という本件発明のよつて立つ理論は本件発明の特許出願当時の技術水準では仮説であつて、被告も昭和五五年一一月一日付特許異議申立理由補充書で認めている旨主張するが、成立に争いのない甲第九、第一〇号証、乙第二号証によれば、被告が原告の主張する趣旨において右理論を「仮説」と述べたものでないことが明らかであり、また、「一台のポンプで真空をはかる」ことが本件発明の要旨とされていないことは、前示本件発明の特許請求の範囲に照らし明らかであるから、右の点は前示の判断を覆えす理由とはならない。その他原告が取消事由(3)の(二)(4)で述べるところがいずれも採用できないことは、前叙説示に照らし明らかである。

4 以上のとおり、原告主張の各取消事由はいずれも理由がなく、本件審判の請求を適法のものとし、本件発明が第一、第二引用例に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとした審決の判断に誤りはないといわなければならない。

三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

上室と下室とを備え、上室の中に加熱板が、下室の中に載台があつて、上室と加熱板、下室と載台が夫々相対的に移動する密着真空包装において、載台を下げた状態で真空ボツクスの上下両室間に上フイルムを仕切り状に挟圧させ且つ上フイルムには一切損傷を与えないで上部室内の加熱板を上フイルム上に下降接近させた状態で上下両室を真空化させるに当り、上室を経由して下室を真空化する場合は下室と上室との連通経路の内径を調節し、夫々別個の経路で真空化する場合は経路の内径に差をつけて上部室内の排気速度を早く、下部室内の排気速度を遅く排気させ、この排気速度差による上下両室内の内圧差により、上下両室内が真空化され且つ下フイルム及び被包装物を載せた載台が上フイルム面に上昇されるまでの間、上フイルムを加熱板に継続して接触保持させることを特徴とする真空包装における上フイルム接触加熱方法。

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